これはわたくしの尊敬する、漢方医であり、俳人でもある澁谷道先生の句です。
その昔、先生がお若かった頃、まだ枯野だった大阪の住吉区で夜の急患に出かけられるご自分の姿を詠われている、わたくしの大好きな句です。わたくしが住吉の病院にいる頃、澁谷先生は患者としてお見えになりました。もちろん、最初は先生が医師であることも漢方の使い手であることも、ましてや有名な俳人であることも存じ上げませんでした。
しかし、タダモノでないオーラを澁谷先生から感じ取ったわたくしは、次第に親しくさせて頂き、自己流でかじっていただけの漢方の深さや素晴らしさを先生に教えていただきました。
これを嫌だとおっしゃらない方であれば、どなたでも症状に応じて漢方薬を処方することができます。
ただし、急な感染症(中耳炎、副鼻腔炎、咽喉頭炎など)には抗生剤や消炎剤を第一選択にする方が良い場合もあります。
ある年の春に、スギ花粉症の患者さんスギ多鼻子(仮名)さんがやってきました。鼻の中はパンパンに腫れ、隙間もなく、息もできない状態、しかも鼻水もボタボタ、鼻の中を診ようとすると、それだけでくしゃみを連発。カルテを見ると、ありとあらゆる抗アレルギー剤を処方され、私の先輩のA先生は最後にステロイドの合剤まで飲ませていましたが、全く効果がありませんでした。困り果てた私は、にわかに聞きかじった小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を処方して帰っていただきました。次回の診療時には自分があたらないことを願って・・・。
2週間ほど経ったある日、A先生が私を呼び止めて言いました。
「西村先生が、スギ多さんに出したあの何とかっていう薬(A先生は、漢方薬の名前もご存知ありませんでした。)、あれムチャクチャ効いたで!鼻診たら、穴があるねん。(穴があるのは当たり前じゃないか、と思われるでしょうが、スギ多さんの鼻は花粉症の為、腫れて穴がなかったのでした。)」
驚いたのは私のほうでした。苦し紛れに処方した漢方薬がメイクミラクルしたのです。これがわたくしと漢方薬との最初の出会いといっても過言ではありません。
素直な私は、
「高血圧の傾向のある頭痛」には釣藤散(ちょうとうさん)
という漢方のマニュアル通りの処方をしました。
数日して、来院されたこの患者さんは「この薬飲んだら、麻雀(マージャン)が強くなったよ。」とおっしゃいました。
その後、又別の男性患者さんに釣藤散(ちょうとうさん)を処方したところ、「今まで、2階に来たけど何しに上がってきたのか、分からん時があったけど、この薬飲んでからそれがなくなった。」と言われました。また別の患者さんは「最近夢を全部覚えてんねん。」と、言われました。
この3つのエピソードから、釣藤散(ちょうとうさん)は脳の働きを助けるのではないかと思われます。こうした患者さんの生の声が、わたくしの漢方ライフを支えています。
何故かというと、髪が寂しくなってこられた方が、殺到しては困るからです・・・。
患者さんの鼻野留守子(仮名)さんは、2月にカゼをひいてから、「ニオイがまったくしない」と言って来院されました。全国的に嗅覚障害にはステロイドを鼻に滴下する療法が行なわれています。私もそれにのっとって、取り合えずステロイド液を処方し、様子を見ましたが、比較的回復しやすい急性の嗅覚障害にも関わらず効果が乏しいため、まずは体の冷えを取る処方からと、ある漢方薬を処方しました。
忍耐強く内服、点鼻を2ヶ月続けていましたら、「ニオイはあんまりしませんが、髪の抜ける量が減りました。」と、思いがけない効果が!3ヶ月目で「強い香水のニオイならかすかにわかる。」と、おっしゃるようになりました。
この漢方が何故髪に効果があったのか?おそらく体の血行が良くなって、毛根が元気になったものと思われます。